|
私が建築に対する考え方を学んだある方の言葉に、『自己流はいけない。昔の先輩に学ぶこと。古民家を研究しなさい』というものがありました。確かに昔の民家には日本の気候風土に合った家の造り方のヒントが多くあります。白アリに喰われにくい柱の置き方、腐朽菌を防止する方法、作業性とコミュニケーション空間を共に可能にする間取りなど。昔の民家には真似をするべきところが数多く見られます。
私は、すべてにおいて 『真似をすることこそが学ぶことである』 と思っております。 仕事をするとき、過去の事例や、周りの人の成功事例を、真似をすることを拒む人がときどきいます。例えば、すごく機能的で、見た目も良いデザインの工法や設計を他の建築家が発表したとして、それを素直に真似ることをしない設計者がいたとします。私の考えでは、その設計者が伸びることはないでしょう。
もしも現代の数学者が、 円周率や水の浮力を発見したアルキメデス、三角形の定理を見つけたピタゴラス、万有引力の法則を解き明かしたニュートンなど、何百年、何千年も前の先人の偉大な発明を学ばずに、一からそれらの法則を編み出していたら、人類はとても月にたどり着くことはなかったでしょう。
真似をすることこそが、学ぶことです。他者や先人の優れた考えをしっかりと真似た上で、自分の工夫を加えることができたならば、その仕事は良いものになるはずです。
最近よくONLY ONEの家づくりと言う言葉のもと、デザイナーズ住宅がもてはやされ、奇抜な家づくりが多くなってきているように感じます。家づくりは大きな投資ですので、確かにお客様は他にはない世界にただ一つの家を造りたいと思われることもあるかもしれません。しかし、ONLY
ONEを追及して、この国の家づくりのセオリーを全く無視することは、決して良い家づくりにつながるとは思えません。奇抜な家は、住む前には魅力的に見えるかもしれませんが、毎日の生活が始まるとやはり心配です。
日本人は、高温多湿の夏と低温乾燥の冬を併せ持つ、この国土で何千年もの間、民家の文化を作り上げてきました。そこには、気候風土と日本の文化を考慮した様々な工夫がなされてきたのです。戦後、急激な欧米文化の流入で、日本人の生活習慣と文化自体が大きく変化をしたものの、やはり、DNAに記憶された心地よさに対する趣向は、民族独自のものがあるようです。
今、いろいろとヤマヒロの設計においてお世話になっている建築家の伊礼智さんの設計の心得の中に、『スタンダードな家づくり』というのがあります。伊礼さんに家づくりを教わるようになったのも、この考え方が好きだからなのですが、『誰もが心地よいと感じることができる設計はスタンダードなものになるはず』ともおっしゃっておられました。確かに、その地方の文化や気候風土に合った家づくりを行えば、敷地の大きさや家族の人数といった条件で、良い間取りというものは限られてくるはずです。光と風を充分に取り入れ、外とのコミュニケーションや家族の関係などを考慮していけば、間取りや設計は決まってくるのです。昔の民家は、規模の大小や、地域性などでいくつかの種類はありますが、基本は限られたものでした。それを探っていけば、今の家づくりにも、十分に応用でき、活かしていきたい設計の手法が数多くあるのです。温故知新という言葉がありますが、地球規模で環境の変化が起きている現代の家づくりにこそ、この言葉を忘れてはいけないような気がします。
(記:三渡眞介)
|