
この夏、友人たちと8名で軽井沢にいってきました。8名でワンボックスを借りて、往復で14時間。遠かったのですが、色々と学ぶことがありました。
まず、軽井沢はとんでもなく涼しかった。日中でも25℃、夜は20℃。海抜800mという標高の高さで、都内から車で2時間という好条件。しかも今や新幹線まであります。そりゃあ避暑地として成功するわな。と思いましたが、この涼しさは標高の高さだけではないようです。きになったのは街路樹の多さ、そして、庭は針葉樹で囲った中に高葉樹を適宜に配置して、気化熱を起こし、涼しい風を意図的に作り出している。町全体がです。これは10年どころか20~30年の計です。これには参った。
宍粟市、もちろん都内からはかなりはなれていますが、大阪や神戸からなら意外に近い。車で1時間半もあれば十分つきます。先を読んで街づくりをしておけば、今頃は関西の避暑地だったかもしれません。なぜこんなに違っているのか?
宍粟市と軽井沢は、実は「山・森林・自然」という素材そのものはかなり近い状況です。一方で、その素材を「地域の価値」に変える仕組みに大きな差がある、という見方ができます。
特に「地域産業」と「町並み」の2つから見るとわかりやすい。
軽井沢は「自然を消費せず、自然に価値を付けること」に成功した町。
宍粟は「自然を産業として使ってきたが、その価値を町の風景やブランドにまで転換し切れなかった町。
ただし、逆に言えば、宍粟には、軽井沢にはない「生産する森」がある。ここが非常に重要。
軽井沢をそのまま真似する必要はありません。「別荘地の軽井沢」に対して、「森と木の暮らしの宍粟」というポジションなら、十分に独自の価値をつくれたと思います。
1.まず、二つの町を比べてみる
| 視点 | 軽井沢 | 宍粟市 |
| 最大の地域資源 | 森・高原・避暑環境 | 森・杉・水・山 |
| 森林の意味 | 景観・環境・別荘価値 | 林業・木材・環境・暮らし |
| 主な外貨獲得 | 観光・別荘・ホテル・飲食・不動産 | 木材・製造・観光・農林業 |
| 建築 | 森の中に建築を溶け込ませる | 一般的な地方都市型建築が多い |
| 町並み | 「軽井沢らしさ」が商品 | 地区ごとの歴史はあるが統一ブランドがない |
| 歴史 | 宿場→避暑地→別荘地 | 風土記・伊和神社・城下町・林業・たたら |
| 地域ブランド | 非常に強い | 素材は強いがブランド化がない |
| 木との関係 | 木を「景観」として価値化 | 木を「産業」として価値化→しかも衰退化 |
| 課題 | 観光過多・開発圧力 | 人口減少・林業衰退・景観の希薄化 |
| 将来の可能性 | ブランド維持 | ブランドor産業をこれからつくれるか? |
宍粟市は市域の約9割が森林で、市自身も森林を「最重要資源」と位置づけています。林業だけでなく、木育、観光、健康、地域経済まで森林を横断的に使う方向を打ち出しています。
つまり、行政の方向性自体はすでに「森を地域全体の価値にする」方へ向いているんです。
2.最大の違いは「木を売るか、森を売るか」
ここが二つの町の違いの核心だったと思います。
宍粟は長い間、【山 → 原木 → 製材 → 木材 → 建築】という産業で生きてきました。しかも現在、その産業すらが衰退している。実際、古い『宍粟郡誌』にも「林業は本郡の生命なり」と記されるほど、林業そのものが地域経済の中心でした。
ところが軽井沢は違います。森林資源そのものを売らない。森の中で過ごす時間、涼しさ、静けさ、建物、庭、食事、文化、別荘生活――つまり、「森の中で暮らす価値」を商品化した。その結果、林産資源そのものよりも、「この森の中に土地を持ちたい」というところまで価値を高めました。これが不動産価格、別荘、ホテル、飲食、商業などに波及しているということ。
3.だから軽井沢は「建築」をものすごく大切にする
ここが町並みの話につながります。軽井沢は1972年から自然保護対策要綱を設け、開発・景観・環境保全を続けています。現在も土地利用や開発について独自の基準を設け、自然と景観を守っています。長野県の軽井沢町景観育成基準ガイドラインも、軽井沢の特徴を、【自然+低層建築+そこで育まれてきた文化】として捉えています。つまり、建物は個人の所有物であると同時に、町のブランドを構成する一部分だと考えているわけです。
これは非常に重要です。
4.宍粟にも、実はその芽がある
例えば山崎です。山崎は江戸時代に城下町として発展し、現在もその歴史を持っています。しかも山崎町山崎地区は「歴史的景観形成地区」に指定され、城下町ゾーン 町家商店街通り 酒蔵通りなどに分けて建築物の形態・色彩・材料などの基準があります。これは非常にいい素材です。さらに一宮には伊和神社や古代史、波賀には波賀城、千種には千種鉄・たたら製鉄という物語がある。ですから宍粟には、森林しかないのではない。
むしろ、【森+木材+城下町+神話+鉄+水+農村】があります。素材だけを並べると、相当に強い地域です。
5.では、なぜ軽井沢の方が「価値が高く見える」のか
私は、「編集されているかどうか」だと思います。
軽井沢では、森があって、別荘があって、ホテルがあって、レストランがあって、商店があって、文化施設があって、それらが全部、「軽井沢らしい暮らし」という一つの物語に編集されています。だから「軽井沢」という地名そのものがブランドになります。
一方、宍粟の場合、杉は杉、林業は林業、住宅は住宅、観光は観光、山崎の町並みは町並み、伊和神社は伊和神社、と、価値がバラバラに存在している。ここが一番もったいない。
6.宍粟が軽井沢を超えられる可能性がある部分
ただし、軽井沢には弱点があります。軽井沢の森は主として、「見る森・住む森・休む森」です。
それと違って宍粟の森は、「働く森」でもあります。【木を植える。育てる。伐る。製材する。乾燥する。加工する。家を建てる。家具をつくる。薪として使う。また植える。】この循環です。だから宍粟が目指すべきなのは、「西の軽井沢」ではなく、むしろ、「日本で最も美しい林業の町」です。
7.そうすると「町並み」が産業政策になる
ここが大事です。例えば宍粟で新しく、【市役所、学校、道の駅、店舗、住宅、バス停、公園、看板】宍粟の杉でつくる。ただ木を貼ればいいのではありません。【軒が深く、木陰があり、杉板があり、漆喰があり、石があり、庭がある】。「あ、これは宍粟の建物だ」と分かる建築文化を30年かけてつくる。それとともに街路樹を増やす。すると、林業政策=景観政策=住宅政策=観光政策になります。これは軽井沢型の「景観を守る」という発想から、さらに一歩進んでいます。
8.「宍粟杉の家」が町をつくる
例えば、宍粟で家を建てるなら、宍粟杉を使うことが格好いい。宍粟杉の家に住むことが、「私はこの土地を選んだ」という意思表示になる。そういう文化まで持っていく。すると、【山の木、製材所、大工・職人、工務店、住宅、美しい町並み、観光、移住、不動産価値、山の価値】と循環します。これこそが、宍粟でつくれる地域内経済循環でしょう。
「軽井沢では森の中に住む。」ことが価値。宍粟では「森とともに生きる。」ことが価値。そんな町になれば建築屋として本望です。







